修理費・買替差額・代車費用等
交通事故の物損の賠償に関して、基本ルールや判例をまとめました。
このページではまず、車関係の物損について説明します。
事例は主に「赤本(※)」から抜粋しているので、正確な情報が必要な場合は原本を参照してください。
※「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」 弁護士が賠償請求額を決める時に使うバイブル
修理費
適切な範囲での修理費が認められます。
「適切な範囲」というのは、金額だけの問題ではありません。
下記の事例は赤本に載っています。
例えば、ベンツのバンパーが破損で取り換えが必要になった例。
この例では、バンパーは金メッキが施されていましたが、それは14万8000円しました。
比較的少額だと思いますが、金メッキのものを弁償する必要はないとして、5割の7万4000円だけが認められました。
他方、クレーンの先端部分が潰れたクレーン車の場合。
部品交換に266万円かかりますが、加害者は板金加工で済むではないかと主張しました。
しかし、クレーンは形が直ればいいものではなく、安全性・信頼性が確かでないと、別な場所で事故が起きかねません。
そこで、この件では部品交換費が損害と認められました。
このように「適切な範囲」というのは、常識に照らして必要かつ過剰でない範囲なのです。
なお、リース車両のように所有権がない車の修理費を使用者が請求できるのかという問題については、できるとした判例が載っていました。
経済的全損の判断
修理するより、車両時価額+買替諸費用の方が安い場合は「経済的全損」となり、買替差額が損害と認められます。
この時、車両時価額の判定はさまざまです。
10年落ちの車は価値ゼロなどとよく言われますが、意外に高い価値を認めてくれた判例もでていたので、あきらめずにがんばってみることです。
- 1980年製フェラーリ。事故時の時価は不明だが、マニアの間では古くても価値を持つとして、修理費319万円を認めた。
- 12年落ちのトヨタ・スープラ。加害者は「中古車価格ガイドブック」を根拠に24万5000円を主張したが、走行距離も極端に短いことから時価が修理費57万円を下回ることはないと認めた。
- 平成18年式ヤマハ・シグナス。ネット相場の底値から時価を推定。修理費はそれを上回るとして買替差額を損害と認めた。
買替差額
修理費より車両の時価+買替諸費用の方が安い場合、買い替えの費用が損害と認められます。
ただし、事故車に値が付く場合、その価格は控除されます。
車両の時価は、原則として同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場で取得しうるのに必要な金額です。
赤本には時価判断に関する判例がいろいろ出ていて、被害者に有利なものも少なくないので、あきらめずに研究してみてほしいです。
- ベンツについて。事故当時と事故後の時価の差額722万円を認めず、修理費509万円のみをみとめた。
- 自動車価格月報(レッドブック)にない中古ポルシェの時価を専門誌の価格を参考に推定。ただし、それは販売店の希望価格であることを割り引いて80%の198万円と推定。
- 減価償却を終了し、簿価も0円のトレーラー。法定耐用年数を大幅に超えて使うのが普通なので、価値ゼロとみなすのはおかしいと判断。209万円を認めた。
- 台数限定版のハーレー。購入費は100万円だったが、時価230万円が損害と認められた。
登録手続関係費
修理するより買替と認められた場合、買替に伴う諸費用の負担が問題になります。
下記のようなものが損害と認められます。
- 登録・車庫証明・廃車に関する法定手数料
- ディーラー報酬(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)
- 自動車取得税
一方、下記のようなものは認められません。
- 事故車両の自賠責保険
- 新たに取得した車の自動車税
- 〃の自動車重量税
- 〃の自賠責保険料
評価損
買替より修理と判断されて修理しても、車の価値が落ちることがあります。
外観、機能が元通りにはならないとか、何より事故歴がつくことなどによってです。
その場合、評価損が認められますが、実際の査定結果によらず、修理費の2割程度とすることが多いようです。
- 3年落ちのセルシオ。日本自動車査定協会の査定による減価額51万円を否定。修理費の2割33万円のみ認めた。
- トヨタ・アルファード。修理費の1割19万円を認めた。
- ホンダ・ステップワゴン。修理費の2割16万円。
- ベンツCL600。修理費の3割53万円。
しかし、時には40%50%が認められることもあるようなので、あきらめずに頑張りましょう。
- トヨタ・レクサス。修理費の40%40万円。
- ベンツ。修理費の40%135万円。
- トヨタ・クラウンマジェスタ。修理費の50%22万円。
代車使用料
代車の必要性が示せる場合は、レンタカー等の費用が認められます。
期間は1~2週間が通例ですが、部品の調達や営業車登録が必要な場合は長期間認められる場合もあります。
- 顧客の送迎に使っていたロールスロイスが事故。ほかにスポーツ車を所有していたが、この目的には使えないとして代車を認めた。
- キャデラックリムジンの代車費用488万円を実際に支出。しかし、国産高級車で十分だったとして97万円のみ認めた。
- 被害車両以外に3台の車を所有していたので、代車費用は認められなかった。
- ポルシェの代車使用料1日2万円を認めたが、期間は45日の請求に対し、5週間が上限との判断になった。
- 自宅から勤務先までのタクシー料金34万円を代車費用に相当するものとして認めた。
- ポルシェの代車として実際に使用したのは安いトヨタ・マークⅡだったので、実費のみ認めた。
休車損
営業車(緑ナンバー等)の場合、休車損が認められます。
- 大型貨物自動車が事故。修理期間中に運送を外部に委託した費用から通行料・燃料費などを控除した20万円を休車損と認めた。
- タクシー。1台休車になっても、他の車両を配車すれば8割はカバーできるとして2割のみを認めた。
- 割当・スケジュール管理がタイトなタクシー会社。他の車両への配車では十分カバーできないとして、4.5日分の休車損を認めた。
雑費
下記の雑費は損害として認められます。
- 車両の引き揚げ代、レッカー代
- 保管料
- 時価査定料・見積もり費用等
- 廃車料・車両処分費等