【1.有職者の休業損害|交通事故の消極損害】

給料取りと経営者は違う基準

このページでは、有職者の休業損害について説明します。

 

有職者は次の3つに分類によって、基本的な判断基準が形成されています。

 

  1. 給与所得者
  2. 事業所得者
  3. 会社役員

 

この損害費目に関する注意点をまとめました。

 

事例は主に「赤本(※)」から抜粋しているので、正確な情報が必要な場合は原本を参照してください。

 

※「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」 弁護士が賠償請求額を決める時に使うバイブル

 

1.給与所得者

事故前の収入を基礎に、受傷によって休業したことによる実損を認めるのが基本です。

 

会社員だけでなく、役所勤めやパート・アルバイトもこの分類です。

 

下記のように、様々な周辺事情も含めて加算してもらえる場合もあるので、弁護士に交渉してもらいましょう。

 

赤本には次のような事例が出ていました。

 

  • 2年8カ月にわたる休業期間に関し、毎年の昇給・賞与・時間外手当までが認められた例。
  • 業務ができない状態ではなかったが、「中途半端な状態で復帰するな」と会社から命じられて休んだ期間も認められた例。
  • 事故当日から出勤する予定だった会社の給料が認められた例。
  • 足切断をすぐに了承できなかったために休業期間が長引いたが、それはやむを得ないと認められた例。
  • 海上自衛官が後遺障害のせいで陸上勤務になったために失った航海手当などを認めた例。
  • 松葉づえになったために営業職から融資に異動になった銀行員の減収を損害認定した例。
  • 事故のためにバス運転手から事務職に異動になった人の減収が認められた例。
  • 事故のために契約更新ができなかった契約社員の損害が認められた例。
  • 書店員の女性が本業の損害以外に、副業のホステス業について本業の2倍以上の休業期間について全額認められた例。

 

しかしながら、状況から判断して実損を割り引かれた例もあります。

 

  • 医師の長男の医院で清掃作業をしていた老父。清掃員の相場を超える部分は給与ではなく、実質的に生活援助と判断されて、給与の5割だけが認められた例。

 

事故のために自主退職せざるをえない状況になることもあります。

 

その場合は、給与の実損は発生しないことになりますが、その期間の休業損害が認められた事例も出ていました。

 

これをはじめとする、イレギュラーな例が下記です。

 

  • 事故後まもなく自主退職した重機オペレーターが、回復後に同じ会社に再就職。離職していた期間の休業損害が認められた例。
  • 60歳で定年退職するが、過去の実績をみれば定年延長制度で少なくとも63歳までは働けたはずとして、その期間の休業損害が認められた保険外交員の例。

 

また、治療・静養のために有給休暇を使った場合、その期間の休業損害が認められた事例もあります。

 

さらには、休みが多かったために減らされた翌年の有給休暇の減少分を認めた例もありました。

 

2.事業所得者

経営者や自営業者、自由業者などは、事故のせいで現実の収入減があった場合のみ認められるのが原則です。

 

これは給与所得者と大きく違う点です。

 

その一方で、休業中の固定費(家賃、従業員の給料など)は、事業の維持・存続のために必要な物であれば、認められます。

 

  • 作業の安全確保まで考慮して660日100%を認められた左官職人の例。
  • うどん店とダイビングショップの兼業。後者について確定申告がないため売上不明に関わらず、再開後の売上から類推して休業損害が認められた例。

 

しかし、現実の収入減が事故による休業のせいだけではないと判断される場合もあります。

 

  • トリマー業。開業以来赤字であり、減収は事業の経済効率の悪さや経済・業界動向のせいもあるとして、認める損害は前年との差の7割に留まった例。

 

自営業では様々な出費を経費扱いして申告所得を抑えることが普通に行われています。

 

これは節税に役立ちますが、休業損害の算定ではマイナスに働きます。

 

被害者救済の観点からは実情に合いません。

 

そのあたりを加味して申告所得を超える収入を損害として認めてくれることもあります。

 

  • 確定申告額は100万円だったが、事故前の売上が640万円、経費は93万円とし、年額550万円を基礎とした電気工事業者の例。
  • 申告所得が160万円だった畳職人。公共料金や住宅ローン等の支払いが400万円あることから、賃金センサス男性学歴別平均値の441万円を採用した例。
  • 申告所得290万円の造園業者。妻の専従者給与72万円、事故前年の減価償却費・租税公課・損害保険料83万円の加算が認められ、合計446万円を基礎とした例。

 

事業所得者の休業損害は実際の減収を基礎とするのが原則です。

 

しかし、例外もあるので、あきらめずに弁護士に交渉してもらいましょう。

 

  • 減収のない建築工事業代表者。実際の事業所得ではなく、賃金センサスのデータを基礎として認められた例。
  • 鍼灸院で減収がないのは長男ががんばっているおかげとして、損害が認められた例。
  • 不動産鑑定士。事故後に増収しているのは事故前に受注していた仕事のせいで、事故後は受注が減っており、後で減収が来るということで損害が認められた例。

 

事業存続のための固定経費は認められる点は、事業所得者にはありがたいです。

 

  • 過去3年の所得と固定経費(租税公課、修繕費、減価償却費、利子割引料、管理諸費)の合計の平均額を基礎としてもらえたレンタルビデオ店経営者の例。
  • 歯科医。休職中の代診医師の費用は認められたが、広告費支出は休職中にする妥当性がないと認められなかった例。

 

仕事を長く休むと再開してもしばらく仕事が減るのが普通です。

 

だから損害は休業損害だけでなく、再開後もしばらく発生します。

 

この損害も認められた例が載っていました。

 

  • 出前売上の依存率が高かったため、再開後の損害が認められた蕎麦屋の例。
  • 休業損害に加えて、診療再開後3カ月の売上減少の8割も損害と認められた歯科医の例。

 

せっかく開業したのに、事故のせいで廃業しなければならなくなるケースもあります。

 

この場合、開業費の一部が損害として認められた例があります。

 

  • 2年前の開業費564万円の半分が認められた美容院経営者の例。

 

事故の被害者本人ではなく、その近親者に休業損害が出る場合があります。

 

看護付添に当たるために、仕事を休まざるを得ない場合などです。

 

この休業損害も認められるケースがあります。

 

  • 被害者の父母が浴場を休業した損害が認められた例。
  • 老母が事故死。子供はその対応に追われ、経営する会社が減収。その損害が認められた例。

 

受傷で仕事ができない時に誰かに替わりを頼んだ場合、その費用が認められることがあります。

 

  • 新聞販売店経営者。自分が配達できないので、休業期間中に代行配達員に払った給料が認められた。
  • 一人で経営している歯科医。休業中の代診医師の給与が認められた。
  • 犬のブリーダー。休業中に犬飼育の専門業者に犬を預けた費用が認められた。

 

3.会社役員

会社役員の収入は大きく2分されます。

 

まず、役員ではあるが、実際に勤務して仕事もしている場合、労働の対価としての収入があります。

 

もうひとつは利益配当の部分です。

 

取締役会に出席するだけで実務はしていないような役員の場合、収入は後者だけになります。

 

一般的に、労働対価の部分は休業損害が認められるが、利益配当の部分は認められにくいです。

 

  • 建物解体工事業の経営者。自分自身も肉体労働が多いので、月額100万円の役員報酬の100%が労務対価と認められた。
  • 父親の経営する印刷会社の監査役が被害者。実務をよく担っているので、前年の収入が全額労務対価と認められた。
  • 夫の経営する会社で、パートとともに肉体労働をしていた専務。月額45万円の報酬のうち、労務対価は60%とみなされた例。